Reminiscence

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Reminiscence[edit | edit source]

"Flaire ~ Reminiscence" (回想) is an image story included on the CD-ROM of //Langrisser III// for the Sega Saturn.


夢、を見た。


そこは見慣れた庭園で、幼い女の子が一人、花を摘んでは丹念に編み上げている。

少し長くなると輪を作って、その輪の大きさを確かめてみたり。

穏やかな春の陽射しが、輪を通して少女の顔を明るく照らす。少女が首をかしげるたびに長い巻毛が揺れる。

そんな事を、朝からもう何度繰り返しただろう。輪は王冠より大きくなり、首がすっぽり入るほどになっていた。

少女は満足そうな笑みを浮かべると、最後の仕上げにとりかかる。その頬はほんのりと桜に色づいているみたい。

「姫様、姫様?」

乳母の呼ぶ声に、少女は息を飲んで振り返る。

「まぁ、ここにいらしたのですか」

「うん。これを作っていたの」

姫と呼ばれた少女は、答ながら出来上がったばかりの花輪を乳母にみせる。どこか自慢気。

「これはこれは、綺麗なレイですこと。それよりも、いらっしゃいましたよ。そのレイのもらい手が」

小さなお姫様はこれまでにない笑顔で顔を輝かせ、走り出す。

「姫様、お待ち下さい!」

後ろで乳母の声が聞こえるけれど、少女の足は止まらない。一秒でも早く城に戻りたかった。

そして一秒でも早く、冬の間待ちわびた、彼に会いたかったから。


少女の名は、フレア。

そう。6年前の、幼き日の、私——。


城に戻ると、息を弾ませて謁見の間へ駆け込む。

そこに彼が待っている。

胸の鼓動は、彼の姿を見つけただけでひときわ高くなる。

私は彼に駆け寄ると、勢いあまって彼に飛びつく。そして私を受けとめた彼は優しく、それでいて、どこか悪戯っこの様な、輝く瞳をしている。

「お久しぶりです、フレア姫」

彼はそう言ってうやうやしく頭を下げた。私はというと、呼吸が乱れ、返事が出来ないでいた。その代わりに作ったばかりのレイを、彼の首にかけてあげる。

「おやおや、姫様自らの贈り物だ。ディハルトも隅におけないな」

父との挨拶が済んだクラウス伯が息子であるディハルトの頭に手を置いて言う。

「お前もフレア姫に渡す物があったんじゃないのかな?」

「もう、父さんは!それを先に言っちゃダメじゃないか!」

ディハルトはちょっとすねた様にしながら、懐に手を入れ、それを取り出した。

「はい。ずっと前に話したよね、七色に光る貝のこと」

私は息を整えながらその巻貝を受け取った。

まるで金属のような光沢を持ちながら、それは輝いていた。その渦は裏表のどちらにも片寄らず、綺麗に中心へと巻かれている。なんて綺麗な貝なのかしら。

「これが虹色貝だよ」

去年の秋の頃、ディハルトは私に話してくれたことがあった。

『ラーカスの西側の浜辺には綺麗な巻貝があるんだ。その外側は七色に光るんだ‥‥』

私はそれを聞いて、見てみたくなった。

お父様に話したけど、バーラルの海は崖ばかりで、大きな浜辺がないから見れないと言われたっけ。

「あのとき、フレアがすごく残念そうにしてたから、お土産にと思ってさ‥‥」

そう言って、ディハルトは照れくさそうに笑った。

そんな彼の笑みが私を温かくしてくれる‥‥。


私が彼と初めて会ったのはもう12年前。私が4つの頃だ。

彼の父はラーカス王国の外交官で、我がバーラル王国に同盟を取付に来たのだ。

昔はバーラルも豊かなラーカスを狙って戦争をしかけたこともあったらしい。

だが父の代になると、それもなくなった。父が戦に向かなかったこと、そしてクラウス伯の人柄。こうして両国は同盟を結び、バーラルもラーカスの恩恵を受けることとなった。同時にクラウ

ス家との家族ぐるみの交際もはじまった。

だが私にとってはあまり大事ではなかった。私にとって重要なのは、クラウス伯の一人息子、ディハルトとの出会いだけだったのだから。


——喧嘩をしたこともある。

——泣かされたことだってある。

だけど、そんな出来事の一つ一つが、私と彼との距離を縮めていったのは事実。

立場上、城から出ることをあまり許されなかったせいもあるかもしれない。

けれども、私は彼に、ディハルト・クラウスという少年に惹かれていった。

たとえ私の独りよがりの恋だとしても‥‥。


恋が愛に変わったのは、9つのあの時。

虹色貝を貰ってから数日後のことだった。


「ディハルトよ。お前がどう思っているのか、正直に聞かせてはくれまいか?」

「王様‥‥。」

彼とお父様が話しているところを偶然立ち聞きしてしまった。

行儀の悪い娘だと言わないで欲しい。これが他の人だったら、私はきっと立ち去っていたと思う。けれど、相手がディハルトだったから‥‥。

彼のことは何でも知りたかった。知れば知るだけ、彼に近づけるような気がしていたから。

「お前はフレアをどう思っているのだ?」

私は息が止まってしまうかと思った。恐いけど、それがいちばん知りたかったこと。

「僕は‥‥フレア姫が大好きです」

例えようもない感動が、私の内からわき起こる。

ああ、この一言のために、私は生まれてきたのよ。

あなたに愛されるために——。

「ラーカスへ戻るたびに、ここへ来る日を楽しみにしています。けれど、今は言えません」

「ほほぅ。それはどうしてかな?」

「今の僕には、その資格がないからです」

「だが、フレアの方はどうかな?あいつはお前のことが心底好きらしいぞ」

そう言ってお父様は笑った。

何を言いだすの、お父様!ディハルトが困った顔をしているじゃない!

「なぁ、フレア?」

不意に名を呼ばれ、私は驚いた。どうやらお父様は私がここにいることを気づいていたらしい。

どうしようか、少し迷い、私は言葉もなく、二人の方へ歩み寄って行った。でも顔が熱くて、ディハルトのことを見られなかった。

それは彼も同じ。ちらりと見たその顔は、真っ赤に染まっていて、私と目があうと慌ててそらすのだ。

こんなとき、どうすればいいのだろう?

何を言ったらいいのだろう?

幼かった私には考えもつかなかった。

恥ずかしくて、気まずかった。

だけど、彼の方から声をかけてくれたので、私は救われた。

「あの‥‥フレア‥‥。ちょっと、外へ出ないか‥‥」

「‥‥うん」


外の涼風にさらされても、まだ顔の火照りは冷めない。

私は柄にもなくうつむきながら、彼の背中だけを見て付いて行った。

そして中庭の噴水の前まできたとき、ディハルトは歩みを止めて、私に言った。

「ずっと、言わなきゃって思ってたんだけど、なんだか、言い出せなくて‥‥」

「‥‥うん」

「もうすぐ僕はラーカスへ帰らなきゃならないことは知ってるよね?」

「‥‥うん。‥‥でも、夏にはまた逢えるんでしょ?」

「‥‥‥。それが、ダメなんだ」

「えっ?」

私は自分の耳を疑った。

「今、なんて‥‥」

「騎士になるんだ。そのための修業をするために、親元を離れてウィリアム公爵の所へ行かなければならないんだ」

「それじゃ‥‥」

「うん。どんなに早くても、5年以上かかる。それまで逢えなくなる‥‥」

そこでディハルトの顔が曇るのがわかった。

「嘘でしょ?ねぇ、嘘よね?」

「‥‥ごめんよ。騎士になるのは、ずっと前からの夢だったんだ‥‥」


気がつくと私はお父様にしがみついて泣いていた。

本当はディハルトにすがって泣きたかった。

だけど、それでは彼を困らせてしまう。そして彼はそんな私を嫌いになってしまうかも知れない。

子供ながらに、精いっぱい考え、耐えて、私は城に戻ってきたのだ。

「なぁ、フレア。これは悲しむべきことじゃない。ディハルトが立派な騎士になれるように、応援してあげるべきじゃないかな?」

「‥あたしも‥‥あたしも‥騎士になる‥‥そうすれば、一緒にいられるでしょ‥‥?」

「これこれ、無理を言うんじゃない。それに彼は言ったじゃないか。まだ、資格がないと」

「‥‥資格‥?」

「そうだ。ディハルトはね、お前にふさわしい男になろうと思っているんだよ。厳しいの修業を終えて、正騎士になれば、お前にふさわしい男になれるからな」

「それじゃ、ディハルトは‥‥」

「お前のことを思っているからこそ、騎士になるんだよ。だからお前は、この次ディハルトに会うときまでに、彼にふさわしい女性にならなくてはな‥‥」

「‥‥はい」

お父様は優しく諭してくれた。


夢からさめても、私はまだ起きあがることが出来ないでいた。

まるで心の中に大きな穴があいてしまったよう。

昨日一日でいろんな事がありすぎて、精神的にまいっていたみたい。

それとも、夢のせいだろうか‥‥?

外は雨のようだ。鎧戸を叩く雨音が聞こえてくる。

何気なく頬に手を当てたとき、自分が夢を見ながら泣いていたことに気づいた。

—-いけない。

今の私はバーラル軍をあずかる将の一人なのだ。私の態度一つが兵達に動揺を与えてしまう。

それでなくても昨日は、ライリムの街を奪われたのだから。

私は涙を拭って無理に起きあがると、鎧を身につけ、髪に櫛を当てた。

子供の頃、腰まであった髪は、今では肩にも届かない。ディハルトがバーラルを去った次の日に切ってから、短いまま‥‥。

「あの頃のフレアは、もういない‥‥。今の私は、彼の‥‥敵‥‥」

自分でそう言ってから、目頭が熱くなるのを感じる。

「ダメ‥‥泣いちゃ‥ダメ‥‥」

でも、一度高ぶった感情だけは押さえることは出来ない。涙は、後から、後から、私の頬をつたい落ちる。

お父様が狂ってしまったあの日、こうなることを覚悟していたはずなのに。

私の中には、今だ忘れられぬディハルトへの想いだけが大きくなっていった。


あのときダークナイトが助けに来なければ‥‥。

あのまま捕虜としてでもディハルトに捕らえられていたら‥‥。

‥‥これほどの切なさに苦しむこともなかったかも知れない。

それでも、私は、お父様を、裏切れない—-。


「お父様‥‥どうして、戦争などしかけてしまったの‥‥」

今の私には、ただ、声を殺して泣くことしか出来なかった‥‥。